令和6年度の総決算

2025/04/03

1年を締めくくるエッセイやブログが好きです。あまり知らない人が書いたものでも楽しく読めてしまいます。1年間という長さが、忘れもせず、かといってその時の熱がそのまま続いてもいない、振り返ったり総括したりするのにちょうどいい長さなのでしょう。

私も最後に総決算をしてからまた1年が経ってしまいました。というわけで今回も過ぎ去った年度の総決算をしていきましょう。なんでこの時期に1年間の振り返りをするかと言えば、厠谷のいる環境では1月になっても暦の上でしか年が改まった感じにならず、4月になってようやく新しい1年が来るような雰囲気になるからです。
今回もこの1年間で寄稿や投稿などの形で公開した私の作品について振り返っていきたいと思います。ここに載せた作品以外にも、サークルの合評会で出しただけの作品などがありますが、そのような極めて限定的な場でしか読めない作品を決算の対象から除きました。



署長誘拐!?(R6.07.13~ カクヨムにて順次公開)

架空の街、一日市で警察署長を誘拐しなければならないところを、間違えて一日警察署長として街に来ていた俳優を攫ってしまうドジな泥棒、根津と住井のコンビを描いた作品です。クライムコメディのつもりで書きました。
泥棒たちが主人公でありながら、盗みを試みるのは冒頭くらいで、あとはなんやかんやあって根津たちは誘拐犯として動くことになっています。まあそのあたりはご愛嬌という事で飲み込んでいただきたいです。
この作品の原点は間違えて一日署長を誘拐してしまうというネタのアイデアです。自分のメモを辿ってみたら、このアイデアは昨年度R5年12月1日に思いついていました。同じ日に『ヨシエさんの写真に関する文書群』の構想メモも書いていると思うと、相当昔のような気がします。ちなみに、書き始めたのはWordファイルのプロパティによれば半年後のR6年6月1日でした。
この作品は悪党たちが暴れながらもノリが軽くサッパリと楽しめる読み味を目指していました。例えば映画で言うと、「国際捜査⁉」がまさにそのようなクライムエンターテイメント作品です。「国際捜査⁉」のそのような雰囲気はタイトルの「⁉」記号に凝縮されているような気がしたので、私もそれにあやかって題名の末尾に「⁉」を入れました。



ジョージを追え!(R6.10.26-27 東北大学祭にて700円で販売)

文芸サークルプラネッツR6年度部誌『探し物の短編集』に寄稿した作品です。「探し物」のテーマ創作として書きました。
『署長誘拐⁉』と同じく、根津と住井が主人公の話です。この作品はで根津たちは泥棒らしく密輸された違法薬物を盗み出そうとします。しかしあと少しのところで別の奴らに横取りされてしまい、そして四人の仲間の中には情報を流していた通称ジョージというスパイがいることが判明。根津はジョージを出し抜いて、横取りされたターゲットを奪い返そうとするのだが……。といった作品です。前回と同じくクライムエンターテイメントかクライムコメディになっていたと思います。
この作品は発端となるような明確なアイデアがあったかはあまり覚えていません。探し物がテーマなら、根津と住井を主人公にして、横取りされたお宝を奪い返そうとする話にしよう、くらいの感じで考え始めたような気がします。ただメモを辿った感じでは、ジョージが誰かという謎解きのアイデアは別に5月くらいに思いついていたみたいです。今考えてみると、これに関しては以前書いた別の拙作の大ネタと酷似しているような気もしています。こういう感じのネタがコメディとして好きなのかもしれません。今年度の部誌のテーマ候補に「AI」もあったので、それにちなんで根津たちの犯行計画も組み立てました。
正直なところ、目指していた雰囲気がうまく表現できていたか心配だったので、サークルで読んでくださった方に「ドタバタ」をこの作品のキーワードとして挙げてけたときは、面白いと思っていたノリが上手く伝わっていたことが分かってとても嬉しかったのを覚えています。



Even the heart is in the capital.(R6.10.26-27 東北大学祭にて700円で販売)

今年度の学祭にて、文芸サークルプラネッツのブースで頒布した個人誌です。前年度に引き続き、短編集の形式を取っています。収録したのは書き下ろしの4作です。以下、各作品の簡単なあらすじなどを書いていきます。

・月とスッポン
マグショット専門のカメラマンと、モノクロ専門のモデルが出会う話です。現実世界では考えにくい職業を生業としている人物が別の変な職業についている人と出会って不思議な恋愛をする話を書きたいと長らく思っていて、この作品ではその衝動が発露しました。それから、誰かがこの世を去ってから、残された人がその事実に向き合って新しい日常を受け入れていく過程を描く作品も好きで、それもこの作品のテーマの一つになっています。何人か読んでくださった方のお話を聞く限り、この作品が収録作品の中で一番評判がいいような気がしています。

・SPICE!
近未来の荒廃した都市で、カレーのレシピを探す話です。こういう終末世界のロード―ムービー的な作品は、『アドバード』を読んでから好きなジャンルの一つになっています。カレーのレシピを、遺伝子ならぬ「素配子」と表記してレシピ間の影響を交配、飽きられて食べられなくなることを絶滅などと生物のように表現するというアイデアは確か昨年度くらいから頭の片隅にあったと思います。何度か書いてみては、舞台がしっくりこず違う世界設定で描き直すということを繰り返して、今回の作品が出来上がりました。ちなみに最初は、カレーが国民食以上の地位になった世界の、部活動対抗カレーコンテストを控えた大学で、カレーの素配子を巡る殺人事件が起こったという話を書こうとしていました。

・流れゆく
海で不思議な少女と出会う話です。地元の近くの浜辺で、波打ち際に落ちている錠剤のシートを見つけたことがきっかけで書きました。私自身がこのような作品を読んで自分に刺さるかはわかりませんが、書きたいものは書けたと思います。

・手水場の注意書き
トイレをきれいに使ってもらおうと制限を掛けたら誰も使えなくなってしまった話です。こうやって書くと寓話的な物語に見えますが、これを書いたきっかけは外壁に描かれる小さな鳥居のマークの話を聞いたことです。社問研シリーズの第1話として、次話以降繋がるように書きましたが、別段第2話の構想はありません。

どうにか昨年度に引き続いて個人誌を刊行することができました。学祭で手に取っていただいた方には感謝しかありません。
製作費用は回収できましたが、在庫は何冊か残っているので、どこかの機会でまた頒布できたらと考えています。興味がある方がいましたらお送りすることもたぶんできますので、まずはご一報ください。



プリン型の夢(R6.10.22~ カクヨムにて順次公開)

カクヨムで今年の秋くらいから連載を開始した作品です。各話独立した短編集になっています。一貫したテーマなり世界観なりがあるわけではないので、気になったところだけ読むだけでも作品として楽しめると思います。
今のところ3作公開しています。いずれも別のところで発表した作品なので簡単に紹介だけしましょう。
・プリン型の夢
 当HPで以前から公開している作品です。
・悼飯
 昨R5年度に刊行した個人誌「Ducks sing, Sharks sing too.」に収録した作品です。
・月とスッポン
 今年度に刊行した個人誌「Even the Heart is in the Capital.」に収録した作品です。

今後も発表する予定のない短編作品や個人誌からの試し読み用の1作品などを不定期に公開していくつもりです。よければ気ままにお待ちください。



爽健!蝮葛ドリンク(BLOOMに寄稿?)

名前は違ったような気がしますが、こんな感じのタイトルがつきそうな物語を書きました。
「BLOOM」という関東の私大文芸系サークルが中心となって作っている合同誌に、所属先が誘われていたので寄稿したつもりになっている作品です。 今年度の「BLOOM」のテーマは「嘘」だったので、これも「嘘」にまつわる作品になっています。椎名誠の「中国の鳥人」とか、実演販売員の一人称小説とか焼うどんの作り方をひたすら説明する一人称小説とかの、語り手の独り言が変なところへ突進する感じの短編作品の雰囲気が好きなので、それっぽい読み味を目指した作品になっています。
年末辺りに原稿を送ったはずなのですが、現在まで刊行するのか以前に音沙汰がなく、どうなるのかはよくわかりません。たくさんの学生が集まって形成されているサークルの運営ですら大変なのに、さらにそのサークルを複数束ねた団体を動かすは相当面倒なはずです。原稿を送っただけの私が言うのは簡単ですが、編集部の皆さんに圧し掛かる苦境には痛み入ります。
刊行されなかった場合にはカクヨムかどこかに投稿しようと思います。読むのが楽しみという方がもしいらっしゃいましたら、それまでお待ちください。



KHIPU(新生ずんだ文学 vol.3 に寄稿?)

流行っているわけでもない変な結び方で靴ひもを結んでいる遺体が相次いで見つかるというホラー作品です。形式はモキュメンタリーではなく、一人称小説になっています。新生ずんだ文学 vol.3 の「結び目」のテーマ創作に寄稿しました。
もともと夏ごろにモキュメンタリーホラー小説を書いていたのですが、それが頓挫してので、その時に考えた設定を流用して、その世界で起こるであろう怪異を描いた作品です。
怪異というものを考えた時に、自分はいくつかの死体から因果関係があるはずはないが看過できない共通点が見つかったときに恐怖を感じるような気がしています。例えば「CURE」でいう胸部のX字に切り裂かれた傷であったり、「自殺サークル」での四角く削がれた肌とかが、怪異としてとても怖くて好きです。なので、ここでも変な結び目をそのような共通項として登場させました。
タイトルの「KHIPU」というのは南米で使われていた結び目を使って数値を記録する道具の名前です。




思い返すと、追い立てられるように書いていた1年間だったと思います。別に本当に何かの恐慌に駆り立てられて書いていたわけではありません。ただ思い出してみると自分の中では結構間を空けずに書いていたような気がします。なので見ようによっては何かから逃れるように見える気がしてしまうのです。
この1年間も楽しく書けたと思います。R5年度から、長い期間書き続けられるシリーズが欲しくて、いろいろな第1話を書いては飽きて別のシリーズを考えて、を繰り返していました。だから、「根津&住井シリーズ」を編み出せてうれしく思います。このシリーズは「署長誘拐?!」、「ジョージを追え!」に加えてもう1作も書き上がっており、現状でも3作もあるシリーズになっています。同じ世界設定で3作も書けたのはこれが初めてです。このシリーズはふとした時に思いつく小ネタを入れ込みやすかったりするので、楽しく書けています。せっかく見つけたシリーズの設定ですので、今後もこのシリーズを書くことに飽きないでいられたらと思います。

昨年度に書いた「『ヨシエさんの写真』に関する文書群」も昨年度末に公式で取り上げて頂いて以来、様々な方が目に留めてくださいました。3月にはふたたびカクヨムの公式で取り上げていただきもしました。カクヨムに投稿し始めた当初、モキュメンタリーが小説という分野ではあまり盛り上がっていなかったことを残念に思っていた時のことを思い出すと、このジャンルの昨今の盛り上がりはまさに願ったり叶ったりといったところです。

実を言うとこの4月から、厠谷を取り巻く環境は大きく変化しました。なのでこれまでと同じように書いていけるかはわかりません。けれど、まだ創作活動を辞めたいと思っているわけではないです。今年度も無理せず、楽しく書き続けられればいいなと思います。